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著者コメント
セナと日本人
(双葉社)
1994年5月1日、イタリア・イモラサーキットで行われたF1サンマリノ・グランプリの決勝レースで、アイルトン・セナは高速でコンクリート壁に激突し、死亡した。
あのレースを取材に行っており、衝撃を受けた。
帰国し、セナの死が持つ意味を考えつつ、生前のセナにゆかりのあったさまざまな日本人に取材して、この本にまとめた。
雑誌に寄稿した記事に加筆修正を施したものもあるが、半分以上は単行本のために独自に取材したものだ。
目次を列記してみる。
・プロローグ 1994年5月1日、イモラサーキット
・事故を巡る日本での騒動
・優しく見守ってあげられるのは僕だけだった 菊池威夫
・輝ける雌伏の頃 間瀬明 鈴木利男
・新人離れした実力とスタイルの変化 津川哲夫
・走ることの意味と精神性 桜井淑敏
・ホンダとの黄金時代 後藤治 野口義修
・スポーツマンシップとフェアプレイ精神 中村良夫
・ジャガ芋に秘められた約束 徳吉義男
・レーシングドライバーにとっての生と死 鈴木亜久里 中嶋悟 片山右京
・さようならの儀式 浜口哲夫 川井一仁
・招き入れられた遺体安置室 尾張正博
セナはスーパースターだったから、没後直後から追悼本や写真集がたくさん出版された。ほとんどはセナの戦績と人となりを振り返るものばかりで、もの足りなかった。
日本のF1ファンにセナはとりわけ人気が高く、それまでの日本での“F1ブーム”はセナが牽引していた側面も大きい。それだけ日本人に愛されていたのだから、日本と日本人だけの関係だけを追及してみたら、日本人にしか書けないアイルトン・セナ論が書けるのではないか。また、セナを考えることで日本のF1ブームなるものを総括できるのではないか。
双葉社書籍編集部の真井新さんと意気投合し、少しずつ取材を進め、出版されたのは一年後になった。“追悼本”の類はあらたか姿を消しており、世の中のセナ・ショックも収まっていた。出版のタイミングが遅れてしまったかと危惧していたが、杞憂に終わった。
レースフィニッシュ直後の、フェイスマスクの跡も生々しいセナの横顔を写したジョー・ホンダさんの写真を用いた表紙にインパクトがあった。鈴木一誌さんと寺井恵司さんによるブックデザインも、カッコいい。
装丁の魅力にも助けられ、すぐに版を重ねた。ブームは終わっても、読者は待っていてくれた。増刷を繰り返し、やがて双葉社が創設した双葉文庫に収められた。